マウント・アダムス

山火事の煙にかすむマウント・アダムス

8月16日 出発時に、昨夕のトレイルエンジェルのキャンプで、メンバーに礼を言って別れる。しばらく山を歩くと煙臭いにおいがしてきた。朝日が森の木々の間から差し込むと、煙の筋ができる。山火事に近づいているのではと思ったが、昨夕のトレイルエンジェルたちは山火事について何も言っていなかったので、風向きが変わったせいだろう。煙は場所によってで、この日は晴れ時々煙臭さという一日だった。午前中にマウントアダムスのビューポイントに着いたが、けむりで何も見えず。ここで会ったハイカーがゴスホックの写真を見て、「いつもはこんなだ」と残念がっていた。お昼前にマウントアダムスに近づくと、煙の中でかすかに山のアウトラインが見えた。火事はそのアダムスの向こうで起きているという。この火事では、PCTが通行止めになることはないと思うが、もっと先に大きな火事が起きているという。そちらの方が心配だった。
ワシントンはアップダウンが厳しいと聞いていたが、この日のトレイルは比較的平坦で歩きやすく、25マイル歩いたが、森の中の斜面で、キャンプするような平地はない。トレイルの下に比較的平らな場所を見つけ、整地をしたり細かい枝を敷き詰めて平らな場所を作り、テントを張った。

BLTのサインのあったクーラーボックス

8月17日の朝、林道の脇にクーラーボックスとノート、ごみ袋が置いてあった。クーラーボックスには、黒くなりかけたバナナが一本あっただけで、ほかの飲み物は空だった。クーラーボックスにあった最後のバナナをいただいた。バナナの皮は黒くなりかけていたが気にしなかった。ノートに「最後のバナナをいただいた。ありがとう」と記していたら、クーラーボックスの蓋とノートにBLTのサインがあった。BLTはカリフォルニアで何度かあったハイカーだ。最後にあったのは5月の終わり、彼は悪天候の中、シエラを目指すか、ローンパインに降りて天候の回復を待つか悩んでいた。我々より歩くのが早い彼が抜かさなかったので、彼はローンパインに降りたと思う。サインは2日前だというから、私たちがカスケードロックスに3泊している間に先を行ったのかもしれない。

広い草地でテントを張る 後から来たハイカーが我々と同じテントを持っていた

足の速い彼に追いつくのは無理だろう。クーラーボックスは、ほとんど空だったがBLTの消息を知れてよかった。それに、備え付けのごみ袋にごみを捨てさせてもらって荷物も少し軽くなった。
その日、午後になって晴れ間が広がり、広い草地のキャンプ地から夕日が沈んでいくのが見えた。

閉鎖されたことを現す標識とテープ

18日マウントアダムス方向へ向かうトレイルに張り紙とテープが張ってあり、どうやら通行止めを意味するらしい。そのあと、男女4人が林道でたむろしている。どうやら彼らはトラウトレイクに行こうと車が止まるのを待ってるのだ。ここのトレイルヘッドにパウチした張り紙があり、山火事で通行止めの区間が示してあった。地形的によくわからなかったので、若者たちに聞くとPCTの通過は大丈夫だという。張り紙の地図の意味が分からなかったのは、閉鎖された区間がPCTの西側だったのだ。山火事は東側のはずなのに、どうしてだろうと意味がわからなくなったのだ。さっき通った区間も東に向かうトレイルの閉鎖だった。その日は、森の中、比較的広くて平らなサイトにテントを張る。

シスパス峠手前で見たマウント・アダムス

シスパス・パス 2280
19日は快晴。森を抜けると南側にマウントアダムスが見えた。稜線に出ると広くてなだらかな山の斜面は森で、その中は小さな湖が湖面に森の木と空を映している。さらに正午近くには鋭く切り立った岩山の間をぬうようなトレイルに出る。そこには、小さな看板があり、「ヤキマ 居留区に入る。狩猟禁止 トレイルに留まるように」と書いてある。ここはPCTがネイティブアメリカンの居留区を通る唯一の場所だ。山の斜面につけられて一本のトレイルを行くとシスパス・パス。峠にいた若者たちのグループのリーダーらしき男が私たちの写真を撮ってくれた。峠の向こうの斜面を下ると途中に滝があった。この滝で女性のハイカーが靴を脱ぎ、滝から流れる川の水で足を洗っていた。暑い日だったので、足を冷やしているのかと思ったが、足の裏を気にしているようで、おそろく豆のケアをしているのだろう。

シスパス峠の手前(南)の森の中の湖

下りきった次は、ゆるやかな登りのトレイルで、低い山の間に波打つような丘が重なっている。そこから南を見ると、重なる山々の上にうかぶように見えたのは、マウントアダムスだった。近くではよく見えなかったマウントアダムスがここからほんとうによく見えた。この日がマウントアダムスを見た最終日であった。
その日、午後は暑くなり、トレイルの脇の木立に囲まれたテントサイトを見つけて休む。木の陰に入って靴を脱ぎ、はだしになって足を冷やすと気持ちがよい。

シスパス峠を超えてから見えたマウント・アダムス


;