熱砂の一本道

熱砂の一本道。この道を歩くハイカーは、日没後か日の出前にハイカータウンを出る。

Mile 517.6のハイカータウンから灼熱のトレイルが 20 Mile くらい続く。ゴスホックには、「次の乾燥した長いトレイルのために十分な水のプランを持つこと」とある。トレイルは、カリフォルニア・アクアダクト(水路)に沿ってあるが、飲料水はハイカータウンで確保しておくことだ。水は17 Mile 先のコットンウッド・クリークのアクアダクトの施設に蛇口があるが「飲料水ではない」と記されている。フィルターを通すか殺菌する必要がある。また、当局によってバルブが閉められることもあるので、情報を得ておくこと。ハイカータウンから24 Mile 先のテイラーホース・キャニオンには、クリークとテントサイトがあり、多くのハイカーがテントを張る。私が歩いた2016年の5月中旬。コットウッド・クリークには、キャッシュがあり、ソーダとボトル入りの飲料水がいくつも置いてあった。また、蛇口も開いていてタオルを湿らすなど水を使うことができた。コットンウッド・クリークの先のウィンドファームのヘッドクオーター(管理所)で、得られるという書き込みがあったが、トレイルから2マイルくらい離れているらしい。

気温が高くなる5月以降は、2つの選択肢がある。早朝ハイカータウンを出て、24 Mile 先のテイラーホース・キャニオンを目指す。水は、いつもより多い目に準備しておくが、コットンウッド・クリークまでほぼ平坦であるため、重さはさほど気にならない。もう一つのオプションはナイトハイクだ。お昼過ぎにハイカータウンに着き、昼寝をするなどしばらく休む。水を準備して日が沈むころに出発する。日が昇る頃までにコットンウッド・クリークに着き、橋の下で寝る。この辺りで日陰はそこしかない。昼間は橋の影が動くことから、仮眠程度しかできない。寝不足ならば、次のテイラーホース・キャニオンでキャンプをすればよい。

カリフォルニア・アクアダクト(直径約1.8m)パイプや用水路でビショップの地下水をロサンゼルスへ運ぶ

午前5時過ぎ,まだ薄暗い中4リットルの水を持ってハイカータウンを後にする。ハイカーのほとんどは,昨夜のうちに出発したようで,まだ寝袋に入っているハイカーは4~5人だった。ゴスホックの資料では,この先の「乾燥区間に備えた水の計画を持っているか確かめる」と記されている。4リットルの水の量は,私がグランドキャニオンを横断した時にパーミットで必要とされた1日の水が2リットルだった。その倍あれば,24マイル先のクリークまで十分にたどり着けると思った。

PCTで最も長い直線コース

トレイルは,平原の真ん中を一直線に続くダートの農道。近くには,カリフォルニア・アクアダクト(シエラネバダの地下水をロサンゼルスへ運ぶ)の用水路やパイプラインが通る。午前8時になると,高くなり厳しい暑さが始まる。9時過ぎに一本の木を見つけ,その木影で朝食をとる。食事をしていると,どこからから羊の群れが現れてきた。道路に沿って,まばらに建物があり,牧場を営む農家のようだったが、人の姿はない。

朝食時に現れた羊の群れ

昼間になるとさらに暑くなる。少し風があるのが幸いで,細かい砂に覆われた道路の両側には,幹から直接細い葉を生やしたジョシュアツリーや葉の小さい灌木以外にはない。昼食時にわずかな日陰を探してトレイルから外れたが,何もない。ジョシュアツリーの周りは固くて鋭い葉があって近寄りにくいし,小さな葉を付けた灌木の日影はわずかだ。それでもないよりましで,なるべく木に近づいて座ったが,体の一部しか影に入らなかった。
水を余分に持ってきたので,大目に飲める。あまり喉が渇いてなくても大目に水分を取ることが暑さ対策になる。

ゴスホックのコメントによると529マイル付近の橋の下に水が置いてあるという。水は十分に持っていたが,ソーダ類の飲み物を期待して,その橋の下で探したが,水もタンクもなかった。
ここは砂地の平坦な一本道。いつもの山道よりもペースが上がる。弱い風も吹いていて,遠くに見える巨大なウィンドタービン(風力発電機)がゆっくり回っている。この風が背中からの追い風になってトレイルにも吹いているが,涼しさを感じる風ではなかった。
午後3時過ぎ,コットンウッドクリークの水場に着く。クリークに水はないが,四角いコンクリートの施設の横にアクアダクトの水道の蛇口がある。この蛇口は閉まっていることもあるらしいし,トリート(処理)してから飲むようになっている。それより,トレイルエンジェルが置いてくれたポリタンクがいくつもあり,缶入りのソーダも箱に入っていた。水は,半分近く残っていたが,ここで水を1リットルと缶コーラをいただいた。
クリークに架かる橋の下は,この辺りで唯一の日影で,昨夜出発したハイカー達が昼寝をしていた。だが,橋の影は狭いし時間と共に影が動くので,移動しなければならない。あまり寝心地はよさそうに思えなかった。今は5月中旬,これ以上暑さが厳しくなれば別だが,この程度なら昼間歩いて涼しい夜寝た方がよいと思った。それでも,ここにいたハイカーの多くは,次の水場ティラーホース・キャニオンでもキャンプせず,暗くなるのを待って歩いて行った。

コットンウッドクリーク534.9に架かる橋の下で休むハイカー
コットンウッド・クリークに架かる橋。この辺りで唯一の日影だ。
ウィンドタービン(風力発電機)の林の中を行く

コットンウッドクリークで休んでいるとき、近くのウィンドタービンがうなっていた。トレイルはテハチャピまで、風力発電の林の中にあり、時折強い風に悩まされる。途中、「PCTハイカー歓迎」の標識を発見。2マイル東にある風力発電所のヘッドクォーター(管理所)がハイカーに水を提供してくれるという。コットンウッドクリークの蛇口が閉まっていたり、キャッシュがなかったときは、立ち寄る人が多いだろう。建物の中で仮眠ができれば助かると思う。

テイラーホース・キャニオンが近づくとトレイルは登りになってペースが落ちると、橋で休んでいたハイカー達に抜かされる。その時、タオルを落としたことに気が付いた。暑さしのぎに濡らして首にかけていたのだが、少し前、靴紐を締め直そうとかがんだ時に落としたのだろう。急いで戻ったが、後から来るハイカーに「タオルを落として戻るんだ」というと「ハーフマイル先にブルーのタオルがあった」と教えてくれた。さらに戻ると、女性のハイカーがそのタオルを持って歩いてくるのが見えた。私は感激して何度も礼を言ってそのタオルを受け取った。

テイラーホース・キャニオンには、多くのハイカーが休んでいた。渓谷の両脇は高い山で、夕方になると日が陰って涼しい。コットンウッド・クリークにいたハイカー達は、わたしを追い抜いて先に来ていた。彼らもここでキャンプするのかと思ったが、ほとんどのハイカーは、暗くなるのを待って歩いて行った。

テイラーホース・キャニオンでキャンプするハイカー