ハプニング

ハプニング

マニングパークでは、予約したロッジにチェックインし、シャワーを浴びて洗濯をし、おいしい物でも食べ、夜はメールや電話でマニングパークに着いたことを家族や友人に伝え、翌朝はのんびり朝食をとり、11時のバスでバンクーバーに行く予定だった。(*2018年のシーズンからマニングパークを経由するバスの便はなくなった。)
ところが、ロッジにチェックインしたとき、グレイハウンド(バス)が数週間前にスケジュールを変更して、午前1時50分発になったと知らされた。バスの切符はネットで5月に買ったもので,その時は午前11時になっていた。夜中の便では、のんびりするどころか仮眠程度しかできない。それに、スケジュール変更のメールも来ていない。いやな予感はしたが、夜中に起きてバスを待つことにした。
その予感は当たり、時間になってもバスは来なかった。バスは、ロッジに寄らずに行ってしまったのだ。いつもなら、バスはハイウェイをそれてロッジの前で止まり、運転手がロビーに来て乗る人はいないか確認するという。その日は止まるのを忘れて行ってしまったのだ。夜勤のフロントの人がバス会社に電話をし、そこからバスの運転手に連絡をしてくれた。しかし、バスの運転手は電話に出ないという。チケットがどうなるかなど、詳しいことは、バンクーバーのバスターミナルに聞かないとわからないが、ターミナルは朝9時でないと開かない。

マニング・パークを通るバスは1日1便。バンクーバーで2泊するので、1日遅れても飛行機に間に合うが、ここで明日のバスを待つには不安だ。また止まらずに行ってしまうかも知れないからだ。フロントの人が、車で30分かかるが、ホープからはバンクーバー行きのバスが日に3便あると調べてくれた。ネットでホープ発のバスの切符を手配した。9時半のバスが満席で、夕方5時の切符が取れた。ホープまで車で行くしかない。フロントの人が、ホープに行く客を探して同乗を頼んであげると言ってくれた。
午前7時過ぎに部屋の電話が鳴った。ホープ方面に行く人がいるという。イギリス人の男性で、快くホープのバス停まで乗せてくれた。バス停は、町はずれのボーリング場で、スマートフォンの画面を見せてチケットを印刷してもらう。ここで8時間も待つのはいやなので、できれば9時半のバスに乗りたいと言うと、運転手に聞いてみればと言う返事だった。

その運転手はわりと感じがよい人で、「ネットで満席でも実際は空いている」と9時半のバスに乗ることができた。バスは、ほぼ満席であったが、席はいくつか空いていた。若い人からお年寄りまでいろいろな世代に人がバスに乗っている。運転手は、バス停に着くと、乗る客のチケットのチェックや荷物の出し入れで忙しいが、乗り降りが大変な人には必ず手助けをしている。

バスに乗ると一安心。ほんとうなら、PCTをゴールした喜びと感動に浸りながらバスに乗っているはずが、昨日からのハプニングで、それどころでなくなった。バスのスケジュールが変更され、そのバスが止まらなかったという最悪の事態から、バスの切符がネットで取れ、うまい具合にホープに行く人がすぐ見つかり、5時のバスを9時半に変更して乗れた。もとの予定より早くバンクーバーに着き、ゆっくりホテルで休めるだ。私の心の中では、最悪の事態から抜け出し、ベストの状態に戻ることができた安心感が優先し、PCTのゴールの感動は、どこかへ行ってしまっていた。

マニングパークのハプニングは最大だったが、PCT上でこんなことは何度もあった。エトナへ行こうと夕方遅くヒッチハイクを試み、通る車は少なくあきらめたとき、反対方向のトラックが心配して止まってくれ、彼は我々を乗せてエトナへ引き返してくれた。
フィッシュレイク・リゾートへのヒッチハイクでも、30分試みたが車は止まらず、あきらめて歩き始めたら、次のハイカーはすぐに車を拾うことができた。運がなかったと思ったら、その後すぐに会ったデイハイカーが私たちを乗せてリゾートまで往復してくれた。
カスケードロックスの手前でテントのフライシートが壊れ、ポートランドのREIまでテントを買いに行くことになった。カスケードロックスからのポートランド行きのバスは週3便で、滞在を延ばさないとバスに乗れない。空港へのシャトルはかなり高い。トレイルエンジェルにも連絡がつかない。そんなとき、「ポートランドに住んでいるから何かあったら電話をして」と、ダンスミューア近くであったハイカーに電話した。翌日彼は、カスケードロックスに来てくれてポートランドまで往復してくれた。それで、私たちはポートランドのREIで今までと同じモデルのテントを買うことができた。

ほかにもPCTの長い旅の中で、困ったことがたくさんあったが、手助けをしてくれた人がたくさんいた。トレイルエンジェルの人たちにも何度もお世話になった。手助けをしてくれた人やトレイルエンジェルは、決してひまだからやっているのではない。自分が忙しくても困っている人に手を差し伸べていたホープからのバスの運転手のように、思いやりの気持ちがあればできることだ。私たちはPCTの旅で、何度も人のやさしさにふれられたことが最大の喜びで、それらの人々に心から感謝しなければならない。