ハーフウェイマーカー

ハーフウェイマーカー

ハーフウェイマーカー

6月9日午前7時,ブレンダに乗せてもらってトレイルヘッドに向かう。昨日ブレンダに出発の時刻を7時か9時かと聞かれたので,7時と答えた。今日は谷底から稜線まで這い上がるような登りだ。日が高くならないうちに出来るだけ暑い谷間を抜けたい。他のハイカーはまだベッドの中,彼らを起こさないように出発の準備をした。
ブレンダの話では,昨年山火事が3回あったそうだ。私が原因は雷なのかと聞くと,1つはトラックから出た火花,もう1つはハイカーのたき火,もう1つは原因不明だという。2年前は山火事がなかったそうで,今年はどうだろうかと言っていた。
ブレンダが別れ際にトレイルヘッドにあった大きな木を指さし,ポイズンオークだから気を付けるようにと言った。ポイズンオークとは,日本でいう漆に似た毒をもつ木で,葉にふれるとかぶれることがある。このような広葉樹は,町の近くなど標高の低い場所でよく見かける。私たちは,杉,ヒノキ,松など針葉樹など高山地帯の森でキャンプすることが多かったので,それにふれる機会はなかったのだろう。ポイズンオークかどうか見分けがつかないので,広葉樹の近くでのキャンプや休憩はやめた方がよい。
谷を見下ろすと,昨日食事をしたベルデンのホテルとその前を流れる水量の豊かなフェザー川が見える。静かな谷間の町だが,昨夜は真夜中に列車が通過する轟音で目を覚ました。ブレンダも初めは驚いたと言っていたが,いくら慣れても毎夜目を覚ますだろう。ゴスホックの書き込みでは,ベルデンでは毎週末にフェスティバルが開かれて大騒ぎになるという。週末ここに泊まることは避けた方がよい。
朝から登りの連続,陽の光が谷の南斜面に差し込み出したが,森の木々が日陰を作ってくれている。それでも暑くて,時折超える沢の水でタオルを濡らせて汗をぬぐう。この辺りは沢がいたるところにあり,その水の冷たさに救われる。
ベルデンから5マイルでラッセンナショナルフォレストに入る。その中心にあるラッセン火山はセコイヤ,キングスキャニオン,ヨセミテに次ぐPCTで4つ目の国立公園である。
午後になると雲が広がり,夕方近くには雲が低く垂れこめ,ぽつぽつと雨が降りだした。雨が本降りになった頃,レインコートを着てゴスホックのデータにある泉を探す。トレイルから100m下の草地に細い水の流れがあり,ほんの少し水が湧き出している。水を汲み始めると蚊がやってきた。今シーズン初めての蚊の来襲だ。顔や手に蚊が止まる。水汲みで両手がふさがっているので蚊を追い払うのもままならず,いらいらする。そういえば,まだ虫除け剤を買っていないことに気が付いた。
5時過ぎに高台の見晴らしのよい場所にテントサイトを見つけた。まだ14マイルしか歩いていないが,今朝からずっと登りで,ベルデンから標高にして1500m以上登った。それに天気も良くないので早めにテントを張った方が無難と思った。テントを張り終わったころには雨はやんだが,雷が鳴っている。高台でなにも遮るのもがないので,しばらく外にいて雷鳴が遠のくのを待ってテントに入った。

ラッセンピーク

6月10日早朝,視界が開けたときに,低く垂れこめた雲の下から頂上に雪を抱いた高い山が見えた。ラッセンピーク3187mだ。ノースバウンダーにとって,この山はPCT後半の最初のランドマークであり、カスケード山脈の最初の火山だ。PCTはこの先も、シャスタ、クレーター・レイク、ジェファソン、シスターズ、フッド、アダムス、レーニアと火山性の山や湖を巡る。

雲の切れ間にうっすらと見えたラッセンピーク

キャンプ地から2時間歩いたところに細長い飼い葉桶(家畜の水のみ用=troughトラーフ)にパイプから水が流れ出しているコールドスプリングがあった。その名の通り冷たい水が出ていて、近くにはテントサイトがある。昨日もここまで来れば重い水を持って丘を登らなくてもよかったと思ったが、丘の上からラッセンが見えたので、昨日の判断はただしかったのだろう。ここで一休みして二人で2リットルの水を水筒に入れた。その日は,森の西のはずれの高台にテントを張ったが,周りの木と山にじゃまをされて日の入りは見えなかった。

ミッドポイント(ハーフウェイマーカー1326.9)

PCTミッドポイントの標識を通過したのはベルデンを出て3日目の朝だった。MEXICO 1325 MILES, CANADA 1325 MILESとあった。半分来たかと思うと「やった」と思うが,まだ半分あると思うと喜んでばかりいられない。半分歩いたのにまだカリフォルニアにいて,シエラネバダからも抜け出していない。シエラネバダ山脈の北端はチェスターの東39号線のフレドニア峠で,PCTではあと8.5マイルで39号線に出る。ちなみに南はマイル566.5のハイウェイ58のテハチャピ・パスである。それにこの標識のある辺りは普通の森の中で,景色もよくなければ休む場所もない。ベンチとかレジスター(記録簿)があれば、喜びを感じたり共有したりすることもできるだろうが、道路が近くになくて何も作れないのだろう。